2019年5月に「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」が成立し、2020年4月に改正民法が施行されます。民法の「債権関係の規定(契約等)」は、1896年に制定されてからほとんど改正が行われていません。そのため、長らく不動産業界の慣習が変わることはありませんでした。しかし今回の法改正で、200項目にも及ぶ事項が改正されています。
マンションやアパートの大家さんに影響があるものもあります。具体的には、敷金や瑕疵担保責任に関する見直しなどです。大家さんとしては法改正によって、どんな箇所が変更になり影響があるのか押さえておく必要があります。
そこでここでは、以下5つの変更ポイントについて紹介しています。
- 敷金
- 原状回復
- 個人保証の極度額
- 瑕疵担保責任
- 所有者変更
それぞれの変更内容を確認してトラブルを回避し、円滑な賃貸経営ができるようにしましょう。
1.敷金について
今回の民法改正では、それまでの民法にはなかった「民法第622条の2 敷金」が追加されています。敷金は、入居前に借主が貸主に預ける保証金になります。改正前の民法では敷金に関する規定がなかったため、トラブルが起きてもわかりづらい解釈による判例も見られました。
しかし今回の法改正で規定が明記されることで、このような事態を回避できるようになります。また、借主も貸主も法に則った敷金のやり取りができるようになります。
具体的な内容としては、「敷金」の名目を問わないというものです。敷金は地域によって名前が異なることが多いです。ある地域では「敷金」ですが、別の地域では「礼金」、また別の地域では「保証金」や「権利金」などと呼ばれています。そのため「何が敷金なのかわからない」「あのお金は何に使っているのか?」など借主と貸主の認識違いが原因でトラブルになることもありました。
今回の法改正によって「賃料債務等を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する金銭で、名目を問わない」と敷金の定義が明記されました。つまり、担保目的のお金であれば「敷金」という名目でなくても問題ないということです。これにより、名目によっては「敷金ではないのでは?」「敷金以外の解釈ができる」ということができなくなります。どのような名目であっても敷金の扱いになります。
2.原状回復について
今回の法改正で原状回復についての規定も明記されました。これまでの法律には原状回復についての規定がなく、トラブルが起きても裁判の判例を積み重ねて解釈を行っていました。
改正民法には「民法第621条 賃借人の原状回復義務」が追加されています。明記された条文内容は「部屋等の賃借物に損傷が生じた場合、部屋の返還をするときに賃借人は原状回復の義務を負う。しかし、通常の使用状況で発生した損傷や経年変化では、原状回復の義務を負わない」というものです。
これまでは境界線がなく借主が必要以上に不利になったり、逆に貸主が不利になるようなことがありましたが、今回の改正によって一定の境界線が明文化されています。「借主は原状回復の義務があるが、通常使用の損傷は義務を負わない」という内容は、大家さんだけでなく借主も知っておいた方がいいでしょう。お互いが理解しておくことで、退去時のトラブルを回避することができます。
3.個人保証の極度額について
今回の法改正によって個人保証の極度額についても明記されています。民法第465条2、465条3、465条4です。
それまでの民法にも連帯保証人の保証内容について名文はありました。しかし借主が自らの落ち度で部屋を焼失して、その損害額の請求が保証人にもいくなど、貸金等債務以外の賃貸借契約の保証人に高額な保証が発生することもありました。
今回の改正法では極度額の定めの義務付けが、すべての根保証契約に適用されると第465条2で明記されています。保証限度額が明記されることになるので、保証人としても極度額のラインを知ることができます。
4.瑕疵担保責任について
法改正によって瑕疵担保責任から契約不適合責任へと変わります。改正前は隠れた瑕疵(欠陥や不具合)が見つかった場合に売主は責任を負うことになり、買主は損害賠償や契約解除を求めることができました。しかし、瑕疵担保責任は法定責任で隠れた瑕疵が前提、知った時から1年以内に権利行使が必要などの決まりがあります。
改正後の契約不適合責任では、法定責任から債務不履行責任へと変わります。また、瑕疵が「隠れた」ものではない場合も適用となり、修補請求権や代金減額請求権もあります。さらに、知った時から1年以内に契約不適合を通知すればよくなります。
契約不適合責任では、
- 履行の追完請求権
- 代金減額請求権
- 債務不履行の規定による損害賠償
- 債務不履行の規定による契約解除
借主はこれらを求めることができるのがポイントです。瑕疵があるとわかっていて告知もしない大家さんはまずいないと思いますが、このような変更点があることを覚えておきましょう。
もし告知をしていない場合、自分にとっての不利益が発生する可能性があります。
最近は借り主の方もしっかりと不動産関係の法律を学んでから交渉に臨まれるようになっていますので、しっかりと大家として必要な知識を持っていましょう。
5.所有者変更について
法改正によって、契約期間中に所有者が変わる(オーナーチェンジ)場合のルールも明確化されました。これまでは、オーナーチェンジになった場合に、借主が家賃をどちら(前のオーナーか新しいオーナーか)に支払っていいのかわからず払わなかった場合、新しいオーナーが家賃支払いを求めるルールがありませんでした。
しかし、今回の法改正で、新しいオーナーが家賃支払を求めるルールが明確化されています。具体的には、不動産の所有権移転登記が済んでいるかがポイントになります。なぜなら、登記簿上のオーナーが家賃の請求をできると明記されているからです。
そのため新しいオーナーは、所有権移転登記が済んでいれば家賃の請求ができますが、移転登記がまだの場合は請求することはできません。ルールが明確化されたことを把握しておきましょう。
この点もこれまでとの変更点になるため、以前から不動産オーナーを務めている方ほど、気づきにくい変更点になってきます。よくご注意ください。
今回紹介したように、2020年4月〜民法改正によってさまざまなルールが変わっています。大家さんに関係する内容も多いので、必ず把握をしておきましょう。把握できていないことが原因でトラブルになる可能性があるからです。ここで紹介した5つのポイントを、ぜひ参考にしてください。
こういった賃貸物件の運用に関する法律の変更は、普通に生活しているだけではそう目にするものではないでしょう。
それだけに意識して学ぶようにしていないと、思わぬ不利益を被る可能性があります。
正しい知識を持つことで、適正な利益を生み出し安全な不動産物件の運用ができるようになります。